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【コラム】「ひとつのことだけやればいい気楽さ」と「バランスをとることの難しさ」

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10月から女子栄養大学さんの「栄養と料理一般講座」を受講している乃樹愛です。

これがまぁ大変で!約半年に定められている学習期間の中で1ヶ月毎を目安に5つの提出課題があって、3つのテキストから出題と各回に実習が含まれているんです。実習内容はネタバレになるので控えさせていただきますが、もちろん今までに作った経験がないものばかりで。すごく新鮮な気持ちで料理に向き合っています。

もちろん、テキストの中にも練習問題があって女子栄養大学さんが採用している「四郡点数法」っていう考え方に基づいて1日の献立を決めるんですが、これが私自分でも笑っちゃうくらい肉・魚・卵に頼りきり!!!

「夜はクラムチャウダーとオムライスにしてみて、昼はサバの味噌煮とかきたま汁……あ!!!卵料理被っちゃってる!!!」みたいな。目標値に届く野菜をとにかく全然とってない。笑っちゃうくらい副菜を軽視してて。それで思ったんですけど「バランスをとる」ってめっちゃ大変だけど、めっちゃ大事なことだよなぁって。

多分ね、ラクしたいんですよね。人間の本質的に。だって卵って完全栄養食って言われてるじゃないですか。肉も魚もタンパク質だからとれるだけとろう!っていう短絡的な思考。野菜って高いし、いろいろ揃えて切るの大変だし。でも、食物繊維が足りないとお通じに響くわけです。だから野菜が必要で、緑黄色野菜、淡色野菜、イモ類、果物をそれぞれ1日でバランスよく取らなきゃいけない。

ぶっちゃけめちゃくちゃ面倒くさい!!!

でも、面倒くさいけどバランスをとらないとお通じが悪くなって、最悪の場合は大腸がんとかになるわけですよ。女性のがんの死亡数ランキング1位ですからね、大腸がん。だから、ちゃんとした食生活、バランスの良い食生活って本当に大事なんだなって。

「何を当たり前のことをここまでダラダラ喋ってんだ」とお思いかと思うんですけど、実は「人生」もそうなんじゃないかなって。「これだけやっておけばいい」ってことって、料理においても人生においても、残念ながら多分ないんですよ。

漫画家の私で置き換えると「漫画だけやってればいい」ってことですけど、漫画に専念するだけの生活してたら、絶対に部屋はぐちゃぐちゃになるし、皿もそのまんまで洗濯物も放置になるし、さらには家族や友人と接する機会がなくなって孤独になるし、でも生きてはいるから私の生活を他の誰かに負担させながら漫画を描くわけですよね?確実に自分の生きる価値とか考え始めて、精神を病むと思います。

しかも、それで面白い漫画を描けるかどうかも、その環境で描いた漫画が売れるかどうかもわからないから、人生のギャンブルの中で安定した精神を保つ必要があるわけで。私はできない。

けど、考えてみて欲しいのは、漫画界でも「徹夜をいとわず人生のすべてを漫画を捧げている先生」は「大変そうだけどカッコいい存在」だと考えられている風潮はいまだにありますよね。私も作品に全身全霊で向き合っている先生たちがドキュメンタリーとかに出てるのを見てると、反射的に同じように考えてしまうところがいまだにあります。

「1日8時間はしっかり寝てますし、めっちゃゲームして家族や友達といっぱい遊びに行きます」という先生より「1日中机に向き合って、家族や友達との時間を制限しながら生活してます」という先生の方がなんだか見栄えがよくてカッコいい生き方だと思ってしまう。なんなら、それで亡くなると美談のように語られることもあるわけで。

これね。以前『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』って本を読んだときに、こういった「ひとつだけのことを全身全霊で頑張らないといけない社会=”全身社会”」に対しての問題提起がされてたんですよ。簡単にまとめると、読書の歴史的立ち位置から最後は”「全身全霊」をやめませんか”という章で締めくくられているものです。

最後の章を要約すると「働きながら本を読めるくらいの時間や心のゆとりが持てる”半身社会”をひとりひとりが目指そう。自分に関係のないノイズでも取り入れられるような心のゆとりを持つために、24時間全身を仕事だけに、家事だけに、とにかく1つの物事だけに費やすことを美徳とする社会から脱却していこう。」というような内容です。

ぜひ全編読んでほしいんですけど、私はこれを読み終わった直後は、正直あんまりピンと来なかったところが多かったんですよ。「言ってることわかるけど、結局は理想論に過ぎなくない?」って。

この本の作者自身も「”半身社会は複雑で面倒なもの”だから、そう簡単にはそんな社会になる日はこないだろうけど」と述べていたし。「もちろんそんな理想的な社会になればさ~みんな心のゆとりを持てるけどさ~現実はさ~…」って、どこか他人事に思えてたんですよね。

けど、こうやって料理に向き合ってわかったんです。「料理に求められるバランス」って「半身社会」のことなんじゃないか、と。「卵と肉と魚だけ食べること」「漫画だけ描けばいいこと」じゃなくて「野菜も芋もあわせて献立を考えること」「漫画以外の家族や友達や読書やゲームの時間を積極的に作ること」の本質は同じなんだな、と。

つまり、私は自分自身を全身社会に無意識的に加担させていたんですよね。食事という小さな行為の中にさえも。だから、あの本の読了直後は他人事のように思えたんでしょうね。こういう自分の周りの小さなところからバランスが崩れているのに、社会全体がバランスよくなるわけないですよね。

なんだかすごく反省して、講座をきっかけに少しずつ料理のバランスから考え始めることにしました。乳糖不耐症で牛乳を飲んでいなかったんですが、乳糖をカットした牛乳を買ってみよう、とか。副菜を充実させるために、野菜をもっと買いこんで、おひたし以外のレシピも模索しよう、とかね。本当にちょっとずつだけど。自分から変わらなきゃな、と。

それに、一見仕事と関係ないことでも、こうやっていろんなことを学ぶことで、人としての引き出しが増えて、結果としてより面白い漫画を描けるとも思うんですよね。生前の手塚治虫先生も「まんがからまんがを学ぶな。一流の音楽を聴きなさい、一流の映画を観なさい、本を読みなさい。」と語っていたらしいですから。

”全身全霊”が称賛される社会はまだ少し続くだろうし、私も”全身全霊であること”が称賛されるべきものとして生きてきましたけど、まずは自分の周りから始めてみます。みなさんも、心と体のバランス。どうか大事にしてあげてください。元適応障害患者からの切なるささやかな願いでした。

乃樹愛

のきあのきままに
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